受注減でも「雇用を守る」ための制度がある
主要取引先からの受注が減った。原材料高で生産を縮小せざるを得ない。それでも、社員を解雇したくない——そんな局面のための制度が雇用調整助成金(通称:雇調金)です。コロナ禍の特例で広く知られましたが、特例終了後も通常制度として存続しており、業績悪化時の選択肢として知っておく価値があります。
このコラムでは、2026年度の通常制度をベースに、対象要件・助成内容・申請の流れ・注意点を中小企業向けに整理します。※金額・要件は改定されることがあるため、申請前に必ず厚生労働省サイトと管轄労働局で最新情報をご確認ください。
雇用調整助成金とは——「休ませて守る」を国が支援する
雇用調整助成金は、経済上の理由で事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、解雇ではなく休業・教育訓練・出向によって雇用を維持した場合に、休業手当等の一部を国が助成する制度です。
労働基準法上、会社都合で社員を休ませる場合は平均賃金の6割以上の休業手当を支払う必要があります。この負担の一部を国が肩代わりすることで、「苦しい時期を解雇せずに乗り切る」選択を可能にするのが制度の狙いです。
対象になる企業・ならない企業
基本要件
対象は雇用保険の適用事業主で、売上高や生産量などの生産指標が、直近3ヶ月の月平均で前年同期と比べて10%以上減少していることが基本要件です(雇用量の要件など細部の確認も必要です)。
対象外になるケース
注意したいのは、「経済上の理由」に当たらない縮小は対象外という点です。例年繰り返される季節的な閑散期や、事故・災害による施設被害での操業停止は原則対象になりません。あくまで景気変動や取引環境の変化など、経済的な要因による縮小が対象です。
助成の内容——中小企業は3分の2
休業を実施した場合、事業主が支払った休業手当の3分の2(中小企業の場合)が助成されます。ただし1人1日あたりの上限額があり、令和7年8月時点で8,870円です(毎年8月に雇用保険の基本手当日額に連動して改定)。支給日数には1年間で100日、3年間で150日という限度があります。
休業の代わりに教育訓練で雇用調整を行う場合は、賃金負担分の助成に加えて訓練費の加算があります。「手が空いた時期を研修に充てて、回復期に備える」使い方ができるのはこの制度の隠れた価値です。教育訓練の設計に人材開発支援助成金という選択肢もあります(人材開発支援助成金でつまずく5つのポイント参照)。
【無料】業績悪化期こそ、組織の状態を見える化する
業績が苦しい時期は、社員の不安も高まる時期です。「この会社は大丈夫か」という不安は、回復期を支えるはずの人材の流出につながります。
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申請の流れ——「計画届の事前提出」がすべての起点
申請の大きな流れは次のとおりです。①休業等の計画を立て、労使協定を結ぶ→②計画届を労働局・ハローワークへ事前提出→③計画に沿って休業・教育訓練を実施し、休業手当を支払う→④実施後に支給申請→⑤審査・支給。
最大の注意点は、計画届は休業を始める前に提出しなければならないことです。「先に休業してしまい、後から申請しよう」は通用しません。また、出勤簿・賃金台帳・売上関係書類など、実態を証明する書類の整備も必須です。
不正受給は「割に合わない」——制度を正しく使う
コロナ特例期に不正受給が社会問題になった影響で、審査と事後調査は厳格化しています。休んでいない日を休業と偽る、書類を改ざんする——発覚すれば返還・ペナルティに加えて事業主名の公表もあり、地域で事業を続ける中小企業にとって致命傷になります。
要件の判断や書類整備に不安がある場合は、助成金に強い社労士への相談が近道です。自力申請と専門家依頼の判断基準は助成金申請に社労士は必要か?で解説しています。
まとめ|「守りの助成金」は、使い方次第で攻めになる
雇用調整助成金のポイントを整理します。①生産指標が3ヶ月平均で前年同期比10%以上減が基本要件。②中小企業の助成率は3分の2、日額上限あり(令和7年8月時点8,870円)。③支給限度は1年100日。④計画届の事前提出が絶対条件。⑤教育訓練との組み合わせで「守りながら育てる」ことも可能。
苦しい時期に人を守った会社は、回復期に最も早く走り出せます。制度は、そのための道具です。
