しゃないしゃ中小企業の経営者から最も多く聞く悩みのひとつが、「後継者がいない」という一言です。帝国データバンクの調査でも、後継者不在率は依然として5割を超えており、事業承継は多くの経営者にとって避けて通れないテーマになっています。
しかし、現場で経営者のお話をじっくり伺ってみると、「本当にいない」のではなく「“候補として見えていない”だけ」というケースが非常に多いのです。社員は10人、20人といるのに、「あいつはまだ早い」「任せるには不安」と、候補者を無意識のうちに除外してしまっている。結果として、選択肢はM&Aか廃業の二択、という状態に追い込まれていきます。
このコラムでは、「後継者がいない」と感じている中小企業の経営者に向けて、M&Aを検討する前にやるべき社内人材育成の3つの準備を解説します。5年後を見据えて、自社の中から次世代リーダーを育てる実践プロセスをお伝えします。
後継者不在の実態|なぜ“社内から”育たないのか
後継者不在率は50%超え|中小企業の深刻な現実
帝国データバンクの「全国企業後継者不在率動向調査」によれば、中小企業の後継者不在率は長らく5割を超えて推移しています。近年は事業承継・引継ぎ支援センターなどの支援や、M&A市場の活性化で改善傾向はあるものの、依然として多くの企業が「誰に継いでもらうか」という問いに答えを出せずにいます。
特に従業員数20人以下の小規模企業では、親族内承継が難しくなっている一方で、社員承継(内部昇格)もうまく進まず、結果的にM&Aか廃業という選択に追い込まれる傾向があります。
経営者が“社内候補を除外してしまう”3つの無意識
興味深いことに、経営者に「社内に後継者候補はいますか」と聞くと、多くの方がほぼ即答で「いない」と答えます。しかし、少し掘り下げて「なぜ?」を聞くと、そこには共通する無意識の思い込みが存在します。
1つ目は「自分と同じレベルを求めている」無意識です。経営者は長年の経験と胆力で会社を引っ張ってきました。その基準で社員を見ると、「まだ足りない」「自分ほどの覚悟がない」と映るのは当然です。しかし、後継者は“今の経営者”になる必要はなく、“次の時代の経営者”になればよいのです。
2つ目は「完成品を探している」無意識です。育てるのではなく、すでにリーダーシップ・財務知識・人望・営業力をすべて備えた人物を探してしまう。そんな人材が社内に偶然いるはずもなく、結果的に「いない」という結論になります。
3つ目は「失敗させられない」無意識です。候補者に重要な仕事を任せたいが、失敗されたら取り返しがつかない。そう考えて、結局は経営者本人がすべて抱え込んでしまう。候補者は「育てられる機会」を奪われ、成長の場を失っていきます。
社内育成が進まない“構造的な3つの壁”
仮に経営者が「この人を候補者として育てよう」と決意しても、中小企業には構造的な壁があります。
1つ目の壁は、日常業務の忙しさです。候補者はすでにエース級のプレイヤーであることが多く、日々のプレイング業務で手一杯です。育成に時間を割く余裕がありません。
2つ目の壁は、経営者との対話不足です。「いずれ任せたい」と思っていても、経営者自身が忙しく、じっくり対話する時間が取れない。候補者は会社の未来像を共有できないまま、日々を過ごします。
3つ目の壁は、財務・経営数字への接点のなさです。現場のエースは現場の数字は見ていますが、会社全体のP/Lや資金繰りには触れたことがない。経営視点を持つ機会そのものがないのです。
M&Aを検討する前に|社内人材育成の3つの準備
準備1|候補者の“見方”を変える
最初にやるべきは、経営者自身の候補者の見方を変えることです。先述の通り、多くの経営者は「完成品」を探してしまっています。そうではなく、「5年後に経営を任せられる素地がある人」を見つけるのです。
見るべきポイントは3つに絞れます。
第一に、誠実さ(インテグリティ)。数字を誤魔化さない、都合の悪い話もきちんと報告できる。リーダーの資質で最も教えにくく、最も重要な要素です。
第二に、学ぶ意欲。経営は未知との戦いの連続です。「分からないことを分からないと言える」「新しいことを学び続けられる」人は、5年で大きく化けます。
第三に、人への関心。リーダーは最終的には人を通じて成果を出す存在です。同僚の気持ちを想像できる、部下の成長を喜べる。この素養がある人は、リーダーとして伸びます。
この3つを軸に、社内を改めて見渡してみてください。「あの人もいるな」「意外とあいつも」と、これまで見えていなかった候補者が2〜3名は浮かび上がってくるはずです。
準備2|“経営の裏側”を見せる機会を作る
候補者が決まったら、経営の裏側を意図的に見せる機会を作ります。具体的には、以下のような場面への同席・参加です。
月次決算レビュー、金融機関との打合せ、顧問税理士とのミーティング、取引先との価格交渉、採用面接、労務トラブルの相談。これらはすべて、経営者が日常的にやっている“経営判断の現場”です。候補者はこれらに触れたことがないからこそ、経営視点が育たないのです。
最初はただ同席するだけでかまいません。2回目以降は、終わった後に「今の判断、どう思った?」と質問する。3回目以降は「君ならどう判断する?」と意見を求める。このステップで、候補者は徐々に経営者の頭の中に入っていきます。
これはほぼコストゼロで始められる育成方法です。新しい研修を入れる必要も、外部講師を呼ぶ必要もありません。すでにある経営活動に、候補者を“連れていく”だけです。
準備3|“小さく失敗できる場”を設計する
準備の最後は、小さく失敗できる場を設計することです。経営判断の訓練は、座学では絶対に身につきません。実際に判断し、結果を受け止めるしかない。
ただし、本業の幹を揺るがすような判断をいきなり任せるのは危険です。そこで、以下のような“小さなP/L責任”を段階的に渡していきます。
新規取引先1社の担当、1部門の予算責任、新商品ラインの試験導入、既存事業の採算改善プロジェクト、小さな設備投資の意思決定。これらは失敗しても致命傷にはなりませんが、成功すれば候補者の自信と実績になります。
重要なのは、任せた後に経営者が口出しを我慢することです。任せると言いながら横から指示を出してしまえば、候補者は「結局は自分の判断ではなかった」と受け止め、成長の機会を失います。
【無料】組織の“後継者候補ポテンシャル”を可視化する
「社内に候補者がいない」と感じている経営者ほど、組織全体を俯瞰できていないケースが多くあります。特に、日々の業務評価ではなく「将来の経営を任せられる素地」という別軸で社員を見る機会は、意識しないと持てません。
キャリアクリエでは、会社全体の組織課題を短時間で把握できる無料の組織診断ツールをご用意しています。後継者候補を見つけるための前提として、今の組織がどこに強みを持ち、どこに課題を抱えているかを見える化するところから始めてみませんか。
数分で回答でき、結果はすぐにご覧いただけます。「うちの組織、どこから手をつけるべきか」を整理するきっかけになります。
5年計画|後継者を育てるロードマップ
1年目|候補者の“覚悟”を確認する
1年目は、候補者に対して「将来、経営を任せる可能性があることを真剣に考えてほしい」と伝える年です。いきなり「継いでくれ」と言うのではなく、「選択肢として考えてほしい」という伝え方が重要です。
候補者は突然の話に驚きますが、時間をかけて家族や自分自身と向き合うことで、徐々に覚悟が固まっていきます。経営者は焦らず、3〜6ヶ月ほど候補者自身に考える時間を与えます。その間、経営会議への同席や経営の裏側を見せる機会を通じて、候補者自身が「やれそうか」「やりたいか」を判断できる材料を提供します。
2〜3年目|経営スキルの体系化
候補者が前向きに考え始めたら、2〜3年目は経営スキルの体系化に入ります。この段階で外部の学習機会を組み合わせます。中小企業大学校の研修、地域の経営者塾、商工会議所のプログラム、中小企業診断士の学習などが候補になります。
同時に、社内では1部門の責任を段階的に任せ、予算作成から実績管理、改善までのサイクルを経験させます。ここで重要なのは、失敗しても責めないことです。むしろ「なぜその判断をしたのか」「次はどうするか」を対話し、判断のクセを矯正していきます。
詳しくはプレイヤー型管理職を変える育成設計でも解説していますが、現場のエースを経営層に引き上げるプロセスは、意図的な設計と時間の投資が不可欠です。
4〜5年目|権限委譲と並走
4〜5年目は、いよいよ権限委譲と並走のフェーズです。重要顧客との関係、金融機関との交渉、採用・評価の最終決裁など、経営の中核業務を段階的に候補者へ移していきます。
この時期、経営者は「自分の仕事が減る」ことに寂しさを感じがちです。しかし、これは計画通りです。経営者は「教える人」から「伴走する人」に役割を変え、候補者が本当に困ったときだけ手を差し伸べる存在になります。
5年計画の最後には、候補者が「自分の言葉で会社の未来を語れる」状態になっていることが目標です。そこまで来れば、事業承継の形は社内承継でもM&Aでも柔軟に選べます。“選べる状態”を作ることが、この5年計画の最大の価値です。
事業承継補助金・人材開発支援助成金の活用
後継者育成には、国の支援制度も活用できます。代表的なものとして、事業承継・引継ぎ補助金や人材開発支援助成金(人材育成支援コース)があります。
人材開発支援助成金は、計画的な職業訓練を実施した際に、訓練経費や賃金の一部を助成する制度です。後継者候補への経営研修も対象になる場合があり、うまく活用すれば育成コストを大幅に圧縮できます。制度の詳細や申請の注意点は人材開発支援助成金でつまずく5つのポイントで詳しく解説しているので、あわせてお読みください。
また、地域の事業承継・引継ぎ支援センターでは、後継者育成の相談や候補者のマッチングなど、無料のサポートも受けられます。制度を知らずに使わないのは非常にもったいないので、ぜひ一度問い合わせてみてください。
まとめ|「いない」を「育てる」に変える
「後継者がいない」という言葉は、多くの場合「完成した後継者がいない」という意味に過ぎません。見方を変え、機会を作り、失敗できる場を用意すれば、社内には候補者が必ず存在します。
M&Aも廃業も、経営者の正当な選択肢です。しかし、その前に一度立ち止まって、「自社の社員を育てる可能性」を本気で検討してみてほしいのです。育てる5年は、経営者自身にとっても新しい経営スタイルを学び直す貴重な時間になります。
キャリアクリエは京都・奈良・滋賀エリアを中心に、中小企業の後継者育成・幹部育成を国家資格キャリアコンサルタントがサポートしています。「候補者との対話がうまく進まない」「経営視点の育成方法が分からない」といった個別のお悩みにも対応しています。
まずは組織診断ツールで、自社の現状を整理するところから始めてみてください。
