「復帰させたいが、どう対応すればいいかわからない」
社員がメンタル不調で休職した——中小企業の経営者にとって、これは初めて直面する事態であることが多く、何をどうすればいいのかわからないまま時間が過ぎていくケースが少なくありません。
「いつ連絡していいのか」「復帰のタイミングは誰が決めるのか」「復帰後にまた悪化したらどうするのか」——こうした疑問が次々と浮かぶ一方で、大企業のように人事部や産業医が対応してくれるわけではありません。経営者か管理職が、手探りで対応せざるを得ないのが中小企業の現実です。
厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、復帰支援を5つのステップで整理しています。このコラムでは、この手引きをベースに、中小企業が実際にどう動けばいいかを具体的に解説します。

休職中の対応|「放置」も「過干渉」もNG
連絡の頻度とルールを最初に決める
休職が決まったら、まず休職中の連絡方法と頻度を本人と合意します。「月1回、メールで体調を報告してもらう」「連絡はこちらからはしない。本人から連絡があったときに対応する」など、明確なルールを決めておくことが双方の安心につながります。
やってはいけないのは、「早く復帰してほしい」というプレッシャーをかけることです。「みんな待ってるよ」「いつ戻れそう?」という声かけは善意であっても、本人には大きな負担になります。逆に、まったく連絡を取らない「完全放置」も、本人に「会社に忘れられた」「もう居場所がない」という不安を与えます。
休職中にやっておくべき社内の準備
休職中にすべきなのは、復帰を受け入れる側の準備です。具体的には、休職者の業務を一時的にどう分担するかの整理、復帰後の業務内容の見直し、そして受け入れるチームメンバーへの基本的な説明です。
チームメンバーへの説明は慎重に行う必要があります。本人の病名や詳しい事情を伝える必要はなく、「体調不良で休職中であること」「復帰したら段階的に業務に復帰すること」を伝える程度で十分です。プライバシーの保護と、チームの理解のバランスを取ることが大切です。
復職判定|「本人が戻りたい」だけでは判断できない
主治医の診断書だけで判断しない
復職のタイミングは、本人の「もう大丈夫です」という言葉だけでは判断できません。焦りや罪悪感から、十分に回復していない段階で復帰を申し出るケースが多いからです。
復職判定には主治医の診断書が必須ですが、主治医の「復職可能」という判断は、「日常生活が送れるレベルに回復した」という意味であり、「従前の業務を支障なくこなせる」という意味ではないことに注意が必要です。
産業医がいない中小企業では、主治医との連携が特に重要です。可能であれば、本人の同意を得たうえで主治医と面談し、復帰後の業務内容や勤務条件について意見をもらうことが望ましいでしょう。
「試し出勤」制度の活用
いきなりフルタイムで復帰するのではなく、段階的に業務量と勤務時間を増やしていく「試し出勤」が有効です。最初の2週間は半日勤務、次の2週間は時短勤務、その後フルタイムに移行する——というステップを設計します。
中小企業では「そんな余裕はない」と感じるかもしれませんが、無理に復帰させて再度休職するほうが、はるかにコストが大きい。段階的復帰は、再発リスクを大幅に下げる最も確実な方法です。
【無料】復帰支援の土台は「組織の受け入れ体制」
復帰支援の成否を決めるのは、本人の回復度だけではありません。受け入れる側の組織の状態——チームのコミュニケーション、業務の偏り、心理的安全性——が整っていなければ、復帰しても再び不調に陥るリスクがあります。
キャリアクリエでは、組織全体のエンゲージメントや働きやすさの現状を短時間で把握できる無料の組織診断ツールをご用意しています。復帰支援を始める前に、受け入れ側の組織状態を確認してみてください。
復帰後のフォロー|「戻って終わり」にしない
復帰後3ヶ月が最も危険な期間
メンタル不調からの復職後、最初の3ヶ月は再発リスクが最も高い期間です。職場に戻った安心感から頑張りすぎたり、「迷惑をかけた分を取り戻さなきゃ」と無理をしたりするケースが多いのです。
復帰後は、最低でも月1回の面談を設けてください。「体調はどうですか」「業務量は適切ですか」「困っていることはありませんか」——こうした定期確認が、再発の早期発見につながります。
外部キャリアコンサルタントの活用
復帰後の面談は、上司が行うこともできますが、外部のキャリアコンサルタントが担当するほうが効果的な場合があります。復帰した社員は上司に「大丈夫です」と言いがちですが、外部の専門家には「実はまだ辛い」「仕事のペースについていけない」と本音を話せることが多いのです。
キャリアコンサルタントは、メンタルヘルスの専門家ではありませんが、働くことに関する不安や悩みを受け止め、必要に応じて専門家や支援制度につなぐ「橋渡し」の役割を果たします。守秘義務のもとで本人の声を聞き、個人が特定されない形で組織にフィードバックする——この仕組みは、復帰支援においても有効です。面談の守秘義務の仕組みはキャリア面談の守秘義務と本音を引き出す仕組みをご覧ください。
再発防止のために「原因」を組織の問題として捉える
メンタル不調の再発を防ぐには、本人のケアだけでなく、不調の原因となった職場環境そのものを改善することが不可欠です。
業務量が過剰だったのか、人間関係に問題があったのか、評価に対する不満が蓄積していたのか。これらは「個人の問題」ではなく「組織の問題」として捉えるべきです。本人を復帰させながら、環境を変えないままでは、同じことが繰り返されます。
組織環境の改善と心理的安全性の関係については心理的安全性の中小企業実践ガイドで詳しく解説しています。
中小企業が使える復帰支援の外部リソース
中小企業が社内だけで復帰支援を完結させるのは難しいため、外部のリソースを積極的に活用してください。
産業保健総合支援センター(さんぽセンター)は、各都道府県に設置されており、メンタルヘルス対策の相談を無料で受けられます。産業医の選任義務がない50人未満の事業所でも利用可能です。
地域障害者職業センターでは、「リワーク支援」として、休職者本人への復帰準備プログラムと、事業主への受け入れ支援を実施しています。利用は無料です。
こうした公的な支援と、外部キャリアコンサルタントによる面談を組み合わせることで、中小企業でも十分な復帰支援体制を整えることができます。
まとめ|復帰支援は「本人の問題」ではなく「経営課題」
メンタル不調からの復帰支援を、「個人の問題」として扱う企業はまだ多い。しかし、休職者が出ること自体が組織のシグナルであり、復帰支援のプロセスは組織改善の機会でもあります。
休職中は適切な距離感を保ちながら連絡ルールを決め、復職判定は主治医と連携し、復帰は段階的に進める。復帰後は最低3ヶ月のフォロー面談を行い、不調の原因となった環境を改善する。
このプロセスを経営者が理解し、「一人ひとりの復帰を丁寧に支える」姿勢を見せることが、残っている社員の信頼にもつながります。「うちの会社は、困ったときに見捨てない」——この信頼が、組織全体のエンゲージメントを高め、次のメンタル不調を予防する力になるのです。

