「人事担当がいないので、採用も評価も研修も、全部自分がやっています」「総務に人事も兼務してもらっているけど、実質は名ばかりで手が回っていません」——中小企業の経営者からよく聞く悩みです。
社員数20〜50名ほどの企業では、人事専任の担当者を置く余裕がないのが現実です。その結果、経営者自身が採用から育成、評価、労務管理までをすべて抱え込むか、総務担当者が片手間で対応するかのどちらかになります。そしていつしか、「人事のことは気になるが、手がつけられない」という状態が常態化します。
この記事では、人事専任がいない中小企業が、社長や一部の担当者に負担が集中することなく、最小構成で機能する人事戦略をどう作ればよいのかを解説します。外部の力をどう使うか、何を内製し何を委ねるかの境界線も具体的に示します。
人事担当がいない中小企業で起きている4つの問題
人事専任がいない会社では、気づかないうちに次の4つの問題が進行しています。
問題1:採用が「緊急対応」の繰り返しになる
誰かが辞めてから慌てて求人を出し、応募が来ないままなんとか1人を採用して、なんとか業務を回す——このサイクルを繰り返すうちに、中長期的な採用戦略がまったく立てられない状態になります。「3年後、うちの会社にはどんな人材が必要か」を考える余裕がなく、その場しのぎの穴埋め採用が続きます。
このような採用では、応募者の質も、入社後のミスマッチも改善されません。採用コストだけが毎年積み上がっていきます。
問題2:育成が「属人的OJT」に丸投げになる
新入社員が入ってきたら、「とりあえず現場の先輩についてもらって覚えてもらう」。これが多くの中小企業の育成パターンです。しかし、誰が教えるかによって習得内容や質が大きく変わる、いわゆる「属人的OJT」の問題があります。
教える側の先輩に余裕がなければ、新人は放置されます。逆に丁寧な先輩に当たれば、その人だけが疲弊します。教える標準が定まっていないため、3年経っても全員の実力がバラバラ——という状況が起きます。
問題3:評価と処遇の判断が社長の頭の中だけにある
評価制度がない会社では、昇給や賞与の金額は社長の頭の中で決まります。社長なりに公平を期しているつもりでも、社員からは「基準がわからない」「機嫌で決まる」と見られがちです。
そして何より、社長自身が重い判断負担を抱えることになります。毎年の評価時期に悩み、社員の顔を思い浮かべながら金額を決める——これは経営者にとって精神的にも時間的にも大きな負担です。しかも、その判断を周囲と共有できないため、ひとりで抱え続けます。
問題4:社員の本音が届かず、離職は「突然」やってくる
人事担当がいないと、社員の声を組織的に吸い上げる仕組みがありません。社長は忙しく、現場管理職はプレイヤー業務に追われ、社員の悩みや不満は誰にも届かないまま蓄積します。そして、ある日突然の退職届——これが繰り返されます。
辞めてから「そんな不満があったなんて知らなかった」と気づいても、もう遅いのです。知らないまま失われていく人材の数は、中小企業経営者が自覚している以上に多いものです。
「社長ひとりで全部やる」をやめるべき3つの理由
人事業務を社長が抱え続けることには、明確な経営上のリスクがあります。3つ紹介します。
理由1:経営判断の時間が奪われる
本来、社長が集中すべきは事業の方向性の決定、営業戦略、資金繰り、重要な意思決定です。しかし人事業務を抱え込むと、求人票の作成、応募対応、面接、入社手続き、評価、研修の手配、労務トラブルの対応など、時間を細切れに奪われます。
社長の時給は事業上の最高単価であるはずです。その時間を人事のオペレーションに使うのは、経営資源の明らかな非効率です。
理由2:判断の客観性が失われる
人事の判断は、感情や人間関係の影響を受けやすい領域です。社長が直接判断し続けていると、「あの社員は昔からよくやってくれているから」「新しい社員にはもう少し厳しく」といった無意識の偏りが判断に入り込みます。悪意があるわけではなく、人として自然なことです。
しかし、偏った判断は組織の公平感を損ない、それが離職や不満の原因になります。客観性を担保するには、第三者の視点が必要です。
理由3:属人化によって引継ぎ不能になる
人事業務が社長の頭の中だけで回っていると、承継や組織拡大の段階で必ず壁にぶつかります。誰もやり方を知らない、どこにも記録がない、基準が言語化されていない——こうなると、次世代に人事を引き継ぐのは不可能に近くなります。
中小企業でも、将来的な事業承継や組織拡大を見据えるなら、今のうちに人事の仕組み化を進めておくことが必要です。
最小構成で機能する人事戦略の4つの柱
人事専任を置けない中小企業でも、4つの柱を押さえれば機能する人事戦略が作れます。すべてを一度にやる必要はなく、できるところから順に整えていく形で構いません。
柱1:人材育成方針の言語化
まず最初に取り組むべきは、「うちの会社はどんな社員に育ってほしいか」の言語化です。これがないと、採用も育成も評価も、すべてがバラバラの判断になります。
言語化の方法はシンプルです。A4一枚に、「3年後に社員にどうなっていてほしいか」「何を大切にする会社か」「どんな行動を評価するか」の3点を書く。完璧でなくて構いません。社長の頭の中にあるものを文字にするだけで、会社としての軸ができます。
この1枚があると、面接で質問する内容、入社後の育成の方向、評価の基準——すべてが同じ軸で考えられるようになります。
柱2:定期的なキャリア面談の仕組み
社員の本音を組織的に拾い上げる仕組みとして、年1〜2回のキャリア面談を取り入れます。社内の上司ではなく、社外の国家資格キャリアコンサルタントが担当することで、社員は安心して本音を話せます。
面談で得られた個別情報は守秘義務のもとに守られ、組織全体の傾向情報だけが経営にフィードバックされます。この仕組みによって、人事担当がいなくても社員の声が経営に届くチャネルができます。
社員数が20名規模でも、この仕組みは十分に機能します。むしろ規模が小さいほど、経営のアクションが社員に届きやすく、効果が出やすいのです。
柱3:シンプルな評価制度
3〜5個の評価軸に絞った、中小企業に合うシンプルな評価制度を整えます。評価項目は行動レベルで書き、四半期ごとの簡単な振り返りと年1〜2回の評価面談を組み合わせます。
評価制度の設計については、別記事「評価制度がない中小企業の人材問題」で詳しく解説しています。ポイントは、大企業のまねをせず、自社で運用できる最小構成から始めることです。
柱4:管理職層の育成
社員数が20名を超えると、社長がすべての社員を直接見ることは難しくなります。管理職に人の管理を任せられるかどうかが、組織の次のステージを決めます。
管理職育成については、別記事「プレイヤー型管理職を変える育成設計」で詳しく解説しています。ポイントは、研修だけでなく、管理職自身のキャリア面談と評価制度の整備をセットで進めることです。
ここまで読んで、「うちも手をつけないといけないとはわかっているが、今の組織がどのくらい危ない状態なのかわからない」と感じた経営者の方も多いのではないでしょうか。人事戦略の整備にどれだけ急いで取り組むべきかは、現在の組織状態を客観的に把握することで見えてきます。
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内製する部分と外部に任せる部分の境界線
人事機能のすべてを内製する必要はありません。むしろ、内製すべき部分と外部に任せる部分を明確に分けることで、社長の負担を減らしつつ質を担保できます。
内製すべき3つの領域
外部に丸投げしてはいけない領域が3つあります。
1つ目は人材育成方針の決定です。「どんな会社を目指すか」「どんな社員を評価するか」は、経営者にしか決められません。これだけは外部委託できない、会社の核となる判断です。
2つ目は最終的な採用判断です。面接の進め方や応募対応は外部に任せられますが、最終的な採否は経営者または経営層が行います。社員の顔を決めるのは経営の仕事です。
3つ目は処遇への反映です。給与や賞与、昇格の最終決定は経営者の判断であるべきです。評価制度の設計は外部の支援を受けられますが、金額を決めるのは会社の責任です。
外部に任せられる6つの領域
外部の専門家に任せられる領域は以下です。
まずキャリア面談の実施。国家資格キャリアコンサルタントに委託することで、社内では引き出せない社員の本音を安全に収集できます。次に研修プログラムの設計と実施。外部の教育の専門家に任せることで、内製より質の高い研修が受けられます。
さらに評価制度の設計支援。人事コンサルタントに相談して骨格を作り、運用は社内で回すのが現実的です。管理職研修も外部の専門家に任せた方が、社内完結より高い効果が期待できます。
そして助成金申請の手続き。社労士に委託することで、書類の不備や期限の失念といったリスクを減らせます。最後に組織診断・レポート作成。客観的な視点で組織の課題を可視化するには、外部の専門家の目が有効です。
「丸投げ」と「協働」の違い
外部活用で失敗する会社は、「丸投げ」になっているケースが多いです。「お金を払うので全部よろしく」では、外部専門家も動きようがありません。会社の方針も、現場の実態も、社長の想いも共有されないと、質の高いアウトプットは出ません。
成功する会社は、「協働」のスタンスを取ります。自社の方針や悩みを明確に伝え、定期的に進捗を共有し、出てきた提案に対して経営判断を返す。このキャッチボールがあるかないかが、外部活用の成果を大きく分けます。
社員20名からの人事戦略ロードマップ
では、人事担当がいない中小企業が、実際にどう進めればよいのか。社員20名規模からの1年間のロードマップを示します。
1〜2か月目:人材育成方針の言語化と現状把握
経営者が「うちの会社の方針・求める人材像」をA4一枚にまとめます。同時に、無料の組織診断や外部専門家のヒアリングを通じて、自社の現状を客観的に把握します。何から手をつけるべきかの優先順位をつけるのが、この段階のゴールです。
3〜4か月目:キャリア面談の導入準備
外部のキャリアコンサルタントを選定し、社員への説明会を実施します。守秘義務の仕組みや面談の目的を丁寧に説明することで、社員の警戒感を解きます。面談の詳しい仕組みは別記事「キャリア面談の守秘義務と本音を引き出す仕組み」で解説しています。
5〜6か月目:キャリア面談の実施と組織レポート作成
全社員または対象者へのキャリア面談を実施し、組織レポートを作成します。ここで初めて、社員の本音や組織の課題が可視化されます。経営者は「なんとなく感じていた問題」がデータとして見える状態になります。
7〜9か月目:評価制度の骨格設計
組織レポートで見えた課題を踏まえて、評価制度の設計に着手します。評価軸の選定、行動レベルの項目化、運用ルールの策定を進めます。ここは外部の人事コンサルタントの支援を受けるのが効率的です。
10〜12か月目:管理職研修と評価制度の試験運用
管理職向けの評価者訓練とマネジメント研修を実施し、評価制度の試験運用を始めます。試験運用で見えた問題点を修正しながら、本格展開の準備を進めます。この段階で人材開発支援助成金を活用すれば、研修費用の負担を大きく下げられます。
継続:半年〜1年ごとのPDCA
導入後は半年〜1年ごとにPDCAを回し、制度と運用を改善し続けます。2年目以降は、採用プロセスの整備、キャリアパスの明文化、サクセッションプラン(後継者育成)など、次のステップに進みます。
助成金でコストを抑える
人事戦略の整備に必要な研修・キャリア面談は、人材開発支援助成金の対象になります。たとえば社員30名規模の企業で、キャリア面談・管理職研修・評価者訓練をパッケージで導入した場合、人材育成支援コースを活用すれば企業の実質負担は約42万円(1人あたり約14,000円)程度まで軽減できます。
「人事にお金をかける余裕はない」と感じている経営者の方にこそ、助成金の活用を検討していただきたいです。申請手続きは提携社労士と連携して進めますので、企業側の負担は最小限です。申請時の注意点は別記事「人材開発支援助成金でつまずく5つのポイント」で解説しています。
まとめ
人事担当がいない中小企業では、社長がひとりで人事業務を抱え込むか、総務担当者が片手間で対応するかのどちらかになりがちです。しかしこの状態を続けると、経営判断の時間が奪われ、判断の客観性が失われ、組織は属人化していきます。
人事専任を置けなくても、4つの柱——人材育成方針の言語化、キャリア面談の仕組み、シンプルな評価制度、管理職層の育成——を最小構成で整えれば、機能する人事戦略は作れます。そして内製と外部活用の境界線を明確にし、「丸投げ」ではなく「協働」のスタンスで外部専門家と付き合うことで、社長の負担を減らしながら質を担保できます。
「人事を仕組み化したいが、どこから手をつければよいかわからない」という経営者の方は、まず自社の現状を知ることから始めてみてください。
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