厚生労働省の業務改善助成金が、2026年9月1日から令和8年度分の申請受付を開始します。従業員の賃金を引き上げ、あわせて生産性向上のための設備投資などを行った事業場に対して、その費用の一部が助成される制度です。
この助成金は、賃上げだけでも、設備投資だけでも対象になりません。両方をセットで行うことが前提の制度です。そして注意したいのが締切で、全国一律の期日ではなく、自社の都道府県の地域別最低賃金の発効日によって変わります。多くの事業場では、申請できる期間はごく短くなります。制度の骨格と、9月1日までに手をつけておくとよいことを整理します。
業務改善助成金とは:賃上げと設備投資が「セット」の助成金
業務改善助成金は、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を一定額以上引き上げ、あわせて生産性向上に資する設備投資などを行った中小企業・小規模事業者に対して、その設備投資などにかかった費用の一部を助成する制度です。
賃金を引き上げただけでは対象になりませんし、設備を導入しただけでも対象になりません。賃上げを実現するために生産性を高める、という組み合わせが制度の前提です。なお厚生労働省のページには、労働者(従業員)がいない場合は助成の対象とならないと明記されています。事業主一人で事業を行っている場合は対象外です。
「事業場内最低賃金」と「地域別最低賃金」は別のものです
この制度で最初につまずきやすいのが、2つの用語の違いです。
- 地域別最低賃金……都道府県ごとに定められた法律上の下限額。毎年秋ごろに改定されますが、発効日は都道府県によって異なります。
- 事業場内最低賃金……その事業場で実際に働いている人のうち、最も時間当たり賃金が低い人の賃金額。
コースや助成率を判断する基準になるのは、事業場内最低賃金のほうです。自社の事業場内最低賃金を把握していないと、どのコースを狙えるのかも、助成率がいくつになるのかも計算できません。まずここから確認することになります。
令和8年度のスケジュールと申請方法
厚生労働省のページによると、令和8年度の申請受付は2026年9月1日に開始されます。
事業の完了期限は、交付決定の属する年度の1月31日です。設備の納入遅延などやむを得ない事情がある場合には、3月31日まで延長できる場合があるとされています。
令和8年度の交付申請期間は、2026年9月1日から、申請事業場に適用される地域別最低賃金の発効日の前日または2026年11月30日のいずれか早い日までです。都道府県によって地域別最低賃金の発効日が異なるため、実際の申請期限も事業場ごとに異なります。また、予算の範囲内で交付されるため、申請期間内であっても募集が終了する場合があります。
つまり、この助成金の実際の申請期限は全国一律ではありません。「11月30日まで」と覚えてしまうと、多くの事業場では実際の期限を大きく過ぎることになります。まず自社の都道府県の発効日を調べ、その前日が自社の申請期限だと考えてください。
申請から支給までの流れ
申請マニュアルには、次の流れが示されています。
- 交付申請書(様式第1号)を提出する
- 労働局による審査を経て、交付決定を受ける
- 交付決定後に、計画に基づいて設備投資などを実施する
- 事業実績報告書(様式第9号)と支給申請書(様式第10号)を提出する
- 助成金額の確定・支給決定
- 助成金の支払い
- 助成金支給後、賃金引上げ後6か月経過時点で、状況報告書(様式第8号)を提出する
順番を間違えると対象外になります
この制度でとくに注意が必要なのが、「何を、いつやるか」の順番です。
- 賃金の引上げ……申請マニュアルには「事業場内最低賃金の引上げは、交付申請書の提出後から地域別最低賃金の改定日の前日までに実施をする必要があります」と記載されています。申請前に引き上げ済みの場合も、改定日以降に引き上げた場合も、対象になりません。
- 設備の導入……交付決定後でなければ対象になりません。申請マニュアルには「交付決定前に助成対象設備の導入を行った場合は、助成の対象となりません」と明記されています。
ここで、先ほどの申請期間と合わせて考えてみてください。令和8年度は、交付申請にも賃上げの実施にも、地域別最低賃金の改定・発効時期が大きく関係します。つまり自社の事業場では、
- 交付申請の期限……地域別最低賃金の発効日の前日(または11月30日の早いほう)
- 賃上げを実施できる期限……地域別最低賃金の改定日の前日
という具合に、申請も賃上げも、地域別最低賃金が切り替わるタイミングで区切られることになります。しかも賃上げは「交付申請書を提出した後」でなければなりません。
受付開始は9月1日です。動ける期間は長くありません。9月に入ってから準備を始めたのでは間に合わない可能性があり、書類の用意は8月のうちに終えておくのが現実的です。
まずは自社の都道府県の地域別最低賃金の改定・発効の時期を確認し、そこから逆算してスケジュールを組んでください。
申請の方法
申請方法は2通りあります。
- 各都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に書面で提出する
- 電子申請システム「Jグランツ」から提出する(GビズIDプライムの取得が必要)
GビズIDプライムは発行までに日数がかかります。電子申請を考えている場合は、9月1日を待たずに取得手続きを進めておくほうが安全です。
助成額はどう決まるのか
助成される金額は、次の2つを計算して、低いほうの額になります。
- 設備投資などにかかった費用 × 助成率
- 上限額
「上限額が600万円だから600万円もらえる」という制度ではありません。実際にかかった費用に助成率を掛けた額のほうが小さければ、そちらの額になります。
引上げ額のコースは3つ
令和8年度の交付要綱では、事業場内最低賃金の引上げ額に応じて、50円コース・70円コース・90円コースの3つが定められています。引上げ額が大きいコースほど、上限額も大きくなります。
助成率は事業場内最低賃金で2段階
助成率は、申請時点の事業場内最低賃金の水準によって2段階に分かれています。
- 事業場内最低賃金が1,050円未満の場合……4/5
- 事業場内最低賃金が1,050円以上の場合……3/4
上限額はコースと人数で変わります
上限額は、「どのコースか」「何人の賃金を引き上げるか」「事業場の規模」「特例事業者にあたるか」の組み合わせで決まります。令和8年度の金額は次のとおりです。
| 引き上げる労働者数 | 50円コース | 70円コース | 90円コース |
|---|---|---|---|
| 1人 | 30万円 (事業場規模30人未満は40万円) | 40万円 (事業場規模30人未満は50万円) | 90万円 (事業場規模30人未満は100万円) |
| 2〜3人 | 40万円 (事業場規模30人未満は70万円) | 50万円 (事業場規模30人未満は100万円) | 150万円 (事業場規模30人未満は240万円) |
| 4〜5人 | 70万円 | 130万円 | 270万円 |
| 6〜7人 | 90万円 | 180万円 | 360万円 |
| 8人以上 | 110万円 | 230万円 | 450万円 |
| 10人以上 (特例事業者のみ) | 130万円 | 300万円 | 600万円 |
「最大600万円」という数字を目にすることがありますが、これは90円コースで、10人以上の賃金を引き上げ、かつ特例事業者に該当する場合の上限額です。条件が一つでも外れれば、適用される上限額は変わります。
また、括弧内の金額(事業場規模30人未満の事業者に適用される額)が設定されているのは、1人・2〜3人の区分だけです。4〜5人以上の区分では、事業場の規模による差はありません。
特例事業者とは
「10人以上」の区分を使えるのは特例事業者に限られます。申請マニュアルでは、次のいずれかに該当する事業者が特例事業者とされています。
- 事業場内最低賃金が1,050円未満の事業場
- 原材料費の高騰など社会的・経済的環境の変化等の外的要因により、最近6か月間平均における売上高総利益率または売上高営業利益率が、前年同期に比べ3%ポイント以上低下している事業者
何が対象経費になるのか
交付要綱の別表第3では、対象となる経費の区分として、謝金、旅費、借損料、印刷製本費、原材料費、機械装置等購入費、造作費、経営コンサルティング経費、委託費が挙げられています。具体例としては、POSレジシステムの導入、顧客・在庫・帳票管理システムの導入、国家資格者による経営コンサルティングなどが示されています。
一方で、対象とならない経費の例も明示されています。LED電球への交換、エアコンの設置、広告宣伝費、建築物の構築費などです。「生産性が上がりそうだから」という自己判断では通らないため、導入予定の設備が対象になるかは事前に交付要綱・申請マニュアル等で確認するか、コールセンターに問い合わせるのが確実です。
各府県の「賃上げ系補助金」との関係
各府県にも賃上げに関する補助金はありますが、それらは国の業務改善助成金とは別の制度です。制度ごとに目的も要件も申請時期も異なり、国の助成金に自動的に上乗せされるものではありません。名称が似ていても中身は別物なので、必ず各府県の公式ページで個別に確認してください。
その際は、検索結果に表示される説明文やまとめサイトの要約で判断せず、公式ページの本文を開いて読むことをおすすめします。説明文には古い情報や別の制度の記述が残っていることがあり、そこだけを見て動くと要件も締切も取り違えます。国の助成金との併用の可否も、制度ごとに扱いが異なります。
9月1日までに手をつけておくこと
受付開始を待ってから動き出すと、書類を揃えるだけで時間を使ってしまいます。いまのうちに次の点を確認しておくと、9月に入ってからの動きがスムーズになります。
- 自社の事業場内最低賃金を確認する……時間給に換算して最も低い人がいくらか。1,050円のラインの上か下かで助成率が変わります。
- 引き上げる対象者が何人になるかを把握する……1人・2〜3人・4〜5人・6〜7人・8人以上のどこに入るかで上限額が大きく変わります。
- 導入したい設備・システムの見積を取る……相手のあることなので、最も時間が読めない作業です。
- その設備が対象経費に入るかを確認する……上記の対象外の例に該当しないかを見ておきます。
- 賃金台帳・就業規則・労働者名簿の整備状況を確認する……提出書類の土台になります。
- GビズIDプライムを取得する……電子申請(Jグランツ)を使う場合は必須。発行までに日数がかかります。
- 賃金規程の改定が必要かを確認する……必要なら社内手続きの日数も逆算しておきます。
そして何より、自社の都道府県の地域別最低賃金の改定・発効の時期を確認してください。申請の期限も、賃上げを実施できる期限も、ここに連動します。準備は前倒しでよいのですが、実行に移すタイミングだけは前倒しにしないでください。
判断に迷ったときの相談先
制度の一般的な内容や対象要件の確認は、厚生労働省が設置しているコールセンターで受け付けています。
- 業務改善助成金コールセンター 0120-366-440(平日9:00〜17:00)
- 申請書の提出先・個別の取扱い……所轄の都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)
ただし「自社ならどのコースが現実的か」「引き上げる人数を何人にすれば賃上げの原資と助成額の見合いが取れるか」といった判断は、賃金構成も設備の内容も会社ごとに違うため、一般的な説明だけでは答えが出ません。
業務改善助成金の活用をご検討中の方へ
株式会社キャリアクリエでは、業務改善助成金の無料相談を承っています。「そもそも自社は対象になるのか」という段階からご相談いただけます。9月1日の受付開始に間に合わせるためのスケジュールも、あわせて整理します。
※本記事は2026年8月26日時点で、厚生労働省の業務改善助成金の公式ページ、令和8年度交付要綱・要領、申請マニュアル、Q&A、および「働き方改革推進支援助成金・業務改善助成金 活用の手引き」を直接確認して作成しています。
※募集は予算到達等により早期終了する場合があります。
※対象経費・要件の個別判断は公募要領および各自治体・事務局の公式見解によります。
※ご不明な点は、業務改善助成金コールセンター(0120-366-440/平日9:00〜17:00)または所轄の都道府県労働局にご確認ください。
