「採っては辞め、採っては辞め」を繰り返していませんか
中小企業の経営者から最もよく聞く悩みのひとつが「人が定着しない」です。苦労して採用した社員が1年以内に辞める。残った社員に負荷がかかり、さらに辞める人が出る。その穴を埋めるためにまた採用し、また辞められる。この負のループを何年も繰り返している企業は少なくありません。
厚生労働省の「雇用動向調査」によれば、従業員30人未満の事業所の離職率は、従業員1,000人以上の大企業に比べて高い傾向にあります。しかし、これは「中小企業だから仕方ない」という話ではありません。離職率が高いのは企業規模の問題ではなく、定着の仕組みがないことの問題です。
このコラムでは、中小企業が離職率を下げるための定着施策を「入社前」「入社直後」「定着期」「成長期」の4段階に分けて体系的に解説します。
まず確認|自社の離職率を正しく計算する
離職率の計算式
離職率の改善に取り組む前に、まず自社の離職率を正確に把握することが出発点です。離職率の一般的な計算式は次のとおりです。
離職率(%)= 一定期間内の離職者数 ÷ 期首の在籍者数 × 100
たとえば、年度初めに30人在籍していた会社で、1年間に5人が退職した場合、離職率は約16.7%になります。業種や規模にもよりますが、中小企業の場合、年間離職率が15%を超えていると「定着に課題あり」と判断してよいでしょう。
「数字」で語ることの意味
離職率を計算する理由は、「何となく辞める人が多い」という肌感覚を、改善の基準値(ベースライン)に変えるためです。数字があれば「今年の施策で離職率が3ポイント下がった」と効果測定ができます。数字がなければ、どんな施策も「やった感」で終わってしまいます。
離職の4つのフェーズ別|定着施策の全体像
フェーズ1|入社前の「期待値コントロール」
離職防止は、実は採用段階から始まっています。入社前の期待と入社後の現実のギャップ——いわゆる「リアリティショック」——が大きいほど、早期離職のリスクは高まります。
中小企業にありがちなのは、人手不足を焦るあまり、求人情報で会社の良い面ばかりをアピールすることです。「アットホームな職場」「風通しの良い社風」——こうした抽象的な表現は、入社後に「聞いていた話と違う」というギャップを生みやすい。
効果的なのは、面接の段階で仕事の大変な面も正直に伝える「リアリスティック・ジョブ・プレビュー(RJP)」という手法です。「繁忙期は残業が増える」「少人数なので一人が担当する範囲は広い」——こうした情報を事前に伝えることで、ミスマッチを減らし、入社後の定着率が上がります。採用段階での課題は求人を出しても応募が来ない中小企業の発想転換でも詳しく解説しています。
フェーズ2|入社直後の「オンボーディング」(入社〜3ヶ月)
入社後3ヶ月は、定着の最も重要な期間です。この期間に「この会社でやっていける」と感じられるかどうかで、その後の定着が決まります。
中小企業のオンボーディングでよくある問題は、「初日から放置」です。「先輩の横に座って見ていて」「わからないことがあったら聞いて」——これでは新人は不安で孤立します。
最低限やるべきは3つです。初日に「歓迎されている」と感じられる対応をすること。最初の1週間は毎日15分の振り返りの場を設けること。3ヶ月目に「ここまでどうですか? 不安なことはありますか?」と確認する面談を行うこと。OJTの仕組み化についてはOJTの属人化を解消する仕組みの作り方も参考にしてください。
フェーズ3|定着期の「エンゲージメント維持」(3ヶ月〜2年)
オンボーディングを乗り越えた社員が、次に「辞めたい」と思うのは入社1〜2年目です。仕事に慣れてきた頃に「この仕事、このままでいいのだろうか」「成長している実感がない」「評価されている実感がない」というモヤモヤが生まれます。
この時期に効果的なのは、上司との定期的な1on1ミーティングです。業務報告ではなく、「仕事の手応え」「今後やりたいこと」「困っていること」を話す場を月1回設ける。これだけで、社員の「見てもらえていない」という不満を解消できます。1on1の具体的な進め方は1on1ミーティングの形骸化を防ぐ進め方で解説しています。
併せて、外部のキャリアコンサルタントとの面談を実施すると効果は倍増します。上司には言えない本音——キャリアへの迷い、人間関係の悩み、転職の検討——を安全に話せる場があることで、「辞めたい」が「もう少し頑張ってみよう」に変わるケースは少なくありません。
フェーズ4|成長期の「キャリア展望」(2年目〜)
2年目以降の社員が辞める理由は、「不満」よりも「展望のなさ」が多くなります。「この会社にいて、自分はどうなるのか」「3年後、5年後のキャリアが見えない」——この先行きの不透明感が、転職へのきっかけになります。
中小企業ではポストが限られるため、「昇進」だけをキャリアパスとして示すのは現実的ではありません。「専門性を深める道」「幅を広げる道」「マネジメントに進む道」など、複数のキャリアの方向性を示すことが重要です。これは大がかりな制度を作らなくても、上司やキャリアコンサルタントとの面談の中で個別に話し合うことで実現できます。
【無料】離職率改善の第一歩は「現状把握」から
離職率を下げるための施策は複数ありますが、自社にとってどの施策が最も優先度が高いかを判断するには、まず組織の現状を客観的に把握する必要があります。
キャリアクリエでは、組織全体のエンゲージメントや働きやすさの現状を短時間で把握できる無料の組織診断ツールをご用意しています。離職の火種がどこにあるかをデータで確認し、効果的な施策を選ぶ出発点にしてください。
定着施策を「コスト」ではなく「投資」として捉える
採用コストと定着コストの比較
社員が一人退職した場合の損失は、一般に年収の50〜200%にのぼると言われています。求人広告費、面接の人件費、入社後の教育コスト、そして退職によるチームの生産性低下——これらを合算すると、「辞めさせない」ためのコストのほうが圧倒的に安いことがわかります。
中小企業では、一人の退職がチーム全体のパフォーマンスに与える影響が大きい。定着施策は「人を大事にするための福利厚生」ではなく、「経営を安定させるための投資」として位置づけるべきです。
助成金を活用して定着施策のコストを抑える
定着施策の多くは、人材開発支援助成金やキャリアアップ助成金の対象になります。社員研修、キャリアコンサルティング面談、評価制度の整備——こうした施策に助成金を活用すれば、自己負担を大幅に抑えながら定着の仕組みを整えられます。
助成金の活用方法については人材開発支援助成金の活用法で、申請時の注意点は人材開発支援助成金でつまずく5つのポイントで詳しく解説しています。
まとめ|離職率は「結果」であり「原因」ではない
離職率が高いこと自体は、問題の原因ではありません。離職率は、組織に存在する問題の「結果」として現れる数字です。離職率を下げるには、数字そのものを追うのではなく、その裏にある「辞めたくなる構造」を一つひとつ解消する必要があります。
入社前の期待値コントロール、入社直後のオンボーディング、定着期のエンゲージメント維持、成長期のキャリア展望——この4段階で定着の仕組みを整えることが、「採っては辞め」のループを断ち切る唯一の方法です。
まずは自社の離職率を計算し、組織診断で火種を特定するところから始めてください。
