この記事は、中小企業の経営者・人事担当の方に向けて書いています。「うちの会社に問題があるのか」を確かめたい方は、7つの特徴のセルフチェックから読んでください。従業員の立場でこのページに辿り着いた方には、記事の後半に別枠を設けています。
「また辞めるのか」が続くとき、原因は個人ではなく構造にある
1人が辞めたときは「あの人の事情だろう」と思えます。しかし2人、3人と続くと、経営者の頭にはある疑いがよぎります。「もしかして、うちの会社に問題があるのか」——その疑いは、多くの場合当たっています。
人が次々辞める会社、社員から見れば「みんな辞めていく職場」には、業種や規模を問わず共通する構造があります。逆に言えば、構造を特定できれば、手の打ちようがあるということです。「うちの業界は仕方ない」「若い世代は続かない」という説明は、原因の特定を先送りしているだけです。
この記事では、その構造を7つの特徴として示します。読みながら、自社にいくつ当てはまるかを数えてください。
人が次々辞める会社かどうか|7つの特徴のセルフチェック
まず一覧で確認します。当てはまるものに印をつけてください。
| # | 特徴 | 当てはまる |
|---|---|---|
| 1 | 辞めた人の本当の理由を、誰も正確に知らない | □ |
| 2 | 不満が経営者の耳に届く公式な仕組みがない | □ |
| 3 | 特定の人に仕事が集中している | □ |
| 4 | 頑張っても評価や処遇が変わらない | □ |
| 5 | 特定の部署・上司のもとで離職が続いている | □ |
| 6 | 3年後・5年後の姿を社員に示せていない | □ |
| 7 | 辞めた人の穴を、残った人に埋めさせている | □ |
人が次々辞める会社の7つの特徴を、一つずつ
特徴1|辞めた人の本当の理由を、誰も正確に知らない
退職者が語る「一身上の都合」「家庭の事情」をそのまま受け取り、検証していない。辞める理由がわからない会社は、同じ理由で辞められ続けます。
この特徴が厄介なのは、会社側に自覚がないことです。退職届には理由が書いてあり、記録も残っている。しかしそこに書かれているのは「対外的に角が立たない理由」であって、実際に気持ちが離れた理由ではありません。
確認の仕方:直近3年の退職者について、「いつ気持ちが離れたか」「きっかけは何か」「どうなっていれば残ったか」の3点を答えられるか。一人でも答えられなければ、この特徴に該当します。
特徴2|不満が経営者の耳に届く公式な仕組みがない
「不満があるなら直接言ってくれればいいのに」と経営者は言います。しかし社員から見れば、評価と処遇を握っている相手に、リスクを負って本音を言う理由がありません。
これは社員の性格や信頼関係の問題ではなく、構造の問題です。どれほど人柄の良い経営者でも、立場が変わらない限り本音は上がってきません。本音を拾う仕組みがない会社では、不満は水面下で共有され、退職という形で一気に表面化します。
確認の仕方:「何かあれば言ってきて」以外に、社員が匿名で・定期的に・不利益なく声を出せる経路があるか。年1回のアンケートは、結果に基づく変更が社員に返っていなければ経路として機能していません。
特徴3|特定の人に仕事が集中している
「あの人がいないと回らない」業務がある会社は、その人の負荷が限界を超えたとき、最も痛い人材から失います。そしてキーパーソンの退職は、周囲の「あの人が辞めるなら」を誘発します。
集中は放置すると加速します。できる人に頼むほうが早いので、さらに集まる。その人が辞めると、残った人にまとめて寄る。この玉突きが、次々辞める会社の実体であることが少なくありません。
確認の仕方:明日から2週間、誰か1人が出社できなくなったとして、業務が止まる人はいるか。1人でもいれば該当します。詳しくは属人化を解消する方法で解説しています。
特徴4|頑張っても評価や処遇が変わらない
評価制度がない、あるいはあっても昇給・昇格につながらない。頑張る社員ほど「ここにいても報われない」と気づくのが早く、優秀な順に辞めていくのがこのパターンの特徴です。市場価値の高い人から先に動くためです。
中小企業では「制度を作るほどの規模ではない」という判断がよくあります。しかし社員が求めているのは精緻な制度ではなく、何をどう評価しているのかが説明されることです。紙1枚から始める評価制度のように、動いていること自体に意味があります。
確認の仕方:直近1年で最も成果を出した社員の処遇は、そうでない社員と明確に差がついているか。差がついていない場合、その理由を本人に説明できるか。
特徴5|特定の部署・上司のもとで離職が続いている
全社の離職率で見ていると、この特徴は見えません。分解すると、離職が特定の部署・特定の管理職のもとに偏っていることが少なくありません。
本人は「厳しく指導しているだけ」のつもりでも、部下には日常的な圧力として蓄積します。そして中小企業では、その管理職が業務上は優秀で、経営者が信頼している人であることが多い。だから対処が遅れます。
確認の仕方:直近3年の退職者を部署別・直属上司別に並べる。偏りが出たら、まず部下側から個別に話を聞いてください。管理職が育っていないこと自体が構造的な問題であるケースも多くあります。
特徴6|3年後・5年後の姿を社員に示せていない
昇進のポストも、スキルが広がる道筋も見えない。この状態が続くと、社員は「ここにいても何にもならない」と判断します。待遇に大きな不満がなくても、将来像が描けないことは退職の十分な理由になります。
「ポストがないから示せない」という会社でも、示せるものはあります。担当領域の広がり、任される裁量の範囲、身につくスキル、外部でも通用する経験。ポストが少ない中小企業のキャリアパスの作り方で具体的に解説しています。
確認の仕方:入社3年目の社員に「3年後、あなたはこの会社で何をしているか」と聞いたとき、答えが返ってくるか。
特徴7|辞めた人の穴を、残った人に埋めさせている
退職のたびに残った社員の負荷が増え、その負荷が次の退職を生む。この会社で最も理不尽なのは、真面目に残った人ほど損をする構造になっていることです。
そして残った社員はこう考えます。「先に辞めた人が正解だった」。これが次々辞める会社の最終形です。
確認の仕方:直近の退職時に、業務を引き取った社員から「代わりに外したもの」があったか。何も外していないなら、該当します。
スコアの読み方
| 当てはまった数 | 状態 | 次にやること |
|---|---|---|
| 0〜1個 | おおむね健全。ただし退職理由の記録だけは続ける | 年1回の点検を継続 |
| 2〜3個 | 要注意。まだ表面化していないだけの可能性がある | 該当項目を1つずつ潰す。優先は特徴1と特徴7 |
| 4〜5個 | 離職が続く構造ができている | 現状を可視化したうえで、90日計画を立てる |
| 6〜7個 | いつ連鎖退職が起きてもおかしくない | まず残る社員への個別ヒアリングから着手 |
ここで注意したいのは、「何個当てはまるか」より「どれが当てはまるか」のほうが重要だということです。特徴1(理由を知らない)と特徴7(穴を残った人に埋めさせる)の2つが揃っている会社は、他が健全でも離職が止まりにくくなります。原因が特定できず、負荷だけが積み上がる構造だからです。
【無料】7つの特徴を、感覚ではなくデータで確かめる
セルフチェックは経営者の見え方に依存します。「うちは特徴2は大丈夫、風通しはいいほうだ」という判断が、社員側から見るとまったく違うことは珍しくありません。
キャリアクリエでは、組織のエンゲージメントや働きやすさの現状を短時間で把握できる無料の組織診断ツールをご用意しています。どの領域に、どの層の不満が溜まっているかを可視化でき、優先して手を付ける場所が特定できます。
7つの特徴の背後にある、3つの構造
7つの特徴は、たどると3つの構造に収束します。個別の特徴を潰すより、この3つに手を付けるほうが効率的です。
構造1|情報が上がらない(特徴1・2・5)
辞めた理由も、いま起きている不満も、特定の部署の実態も、経営者に届いていない。情報がなければ、どんなに優秀な経営者でも正しい判断はできません。最初に手を付けるべきはここです。
構造2|負荷が偏る(特徴3・7)
できる人に集まり、辞めるとさらに寄る。この玉突きは、放置すると自動的に悪化します。業務を人ではなく役割で組み直すことでしか止まりません。
構造3|将来が描けない(特徴4・6)
頑張っても変わらない、先も見えない。この2つが揃うと、優秀な人から順に離れます。制度の精緻さより、何をどう評価し、この先どんな役割が待っているのかを言葉にできているかが分かれ目です。
直す順番|何から手を付けるか
7つ全部に同時に着手すると、たいてい全部が中途半端に終わります。順番があります。
第1優先|情報が上がる経路を作る(構造1)
他のすべての判断がここに依存するからです。原因がわからないまま評価制度を作っても、それが原因でなければ何も変わりません。まず現状を正確に知ることに投資してください。
具体的には、退職者面談の設計、組織診断の実施、外部の第三者による個別面談。退職面談の進め方と組織診断のやり方と活かし方で具体的な手順を解説しています。
第2優先|負荷の偏りを止める(構造2)
最も即効性があり、最もコストが低い領域です。業務を洗い出し、標準化できるもの・外注できるもの・やめてよいものを仕分ける。それだけで特定の人への集中はかなり緩みます。
特に重要なのは「やめてよいもの」を経営者が決めることです。現場は業務を減らす権限を持っていないため、丸投げすると何も減りません。
第3優先|評価と将来像を言葉にする(構造3)
時間がかかる領域なので、上の2つと並行して着手します。完成を待たず、「いま何をどう評価しているか」を言語化して共有するところから始めてください。
90日でやること
| 期間 | やること |
|---|---|
| 1〜30日 | 直近3年の退職者を部署別・勤続年数別・直属上司別に並べ、偏りを特定する/組織診断で現状を可視化する |
| 31〜60日 | 偏りが出た部署から個別ヒアリング/業務の洗い出しと「やめる業務」の決定/退職者面談の様式を作る |
| 61〜90日 | 業務の再配分を実行(引き取る人から何を外すかまで)/評価と役割の説明を全社に共有/面談を仕組みとして定例化 |
社外の人間が本音を聞き、個人が特定されない形で組織課題として集約する仕組みがセルフキャリアドックです。社員へのキャリアコンサルティング面談や研修にかかる費用は、人材開発支援助成金などの雇用関係助成金の対象となる場合があります。要件は年度・コースによって変わるため、実施前にご確認ください。
従業員の立場でこのページに辿り着いた方へ
ここまでは会社側に向けて書いてきました。もしあなたが「みんな辞めていく職場にいる」「自分の職場から人がどんどん辞めていく」という状況の当事者としてこの記事に辿り着いたのであれば、正直にお伝えします。7つの特徴のうち複数が当てはまる職場を、あなた一人の努力で変えるのは、率直に言って困難です。変えられるのは、業務配分と評価と情報の流れを決められる立場の人だけです。
そのうえで、いまできることが2つあります。
- 負荷の再配分を、感情ではなく事実で申し出る。「きついです」ではなく「先月の残業は◯時間、辞めた人の業務のうち◯件を引き取っている」と数字で示す。判断できる立場の人は、数字がないと動けません
- この記事を、決められる立場の人に渡す。個人の訴えとしてではなく「こういう構造の話があった」という形にすると、責められている感がなくなり、話が進みやすくなります
そのうえでなお何も変わらないのであれば、それは会社の判断です。自分のキャリアをどうするかは、あなたが決めてよいことです。
よくある質問
Q. 業種的に離職が多い業界です。仕方ないのでは
業界平均は参考になりますが、同じ業界の中でも会社によって差は大きく開きます。厚生労働省の令和6年(2024年)雇用動向調査では、産業計の離職率が14.2%であるのに対し、宿泊業,飲食サービス業は25.1%と業界差があります(いずれも就業形態計。同調査は常用労働者5人以上の事業所を対象とした標本調査です)。ただしこれは平均であって、同じ業界で定着している会社も存在します。「業界だから」で止めると、その差がどこから来ているのかを検証できません。業界水準との比較のしかたは集団退職の記事で詳しく扱っています。
Q. 7つ全部当てはまりました。もう手遅れですか
手遅れかどうかを分けるのは、当てはまった数ではなく残っている社員に会社への期待が残っているかどうかです。期待が残っていれば、負荷の是正と情報経路の整備から立て直せます。まず残る社員一人ひとりと個別に話すところから始めてください。
Q. 社員に本音を聞いても、当たり障りのない答えしか返ってきません
当然です。評価権を持つ相手に不利益を招く可能性のあることを言うメリットがありません。経営者が直接聞く限り、この構造は変わりません。第三者が守秘義務のもとで聞き、個人が特定されない形で集約する方法を検討してください。
Q. 「人が次々辞める」と「連鎖退職」は違うものですか
重なりますが、定義の軸が違います。この記事で扱う「次々辞める」は、数か月〜数年にわたって継続的に離職が出ている状態を指します。これに対し連鎖退職は先行する退職が引き金となって後続が出る状態(因果関係で定義)、集団退職は同時期に複数が重なる状態(時間的な集中で定義)です。「次々辞める」構造を放置すると、連鎖退職や集団退職という形で表面化します。
まとめ
- 2人目以降が続いたら、原因は個人ではなく構造にある。「業界だから」「世代だから」は原因特定の先送りです
- 数より、どれが当てはまるか。特徴1(理由を知らない)と特徴7(穴を残った人に埋めさせる)が揃うと、離職は止まりません
- 直す順番は、情報 → 負荷 → 将来像。原因がわからないまま制度を作っても変わりません
- セルフチェックは経営者の見え方に依存する。可能なら社員側からの視点でも確認してください
キャリアクリエは、京都・大阪・奈良・滋賀の中小企業に対し、組織診断と外部キャリアコンサルタントによる面談を軸に、離職が続く構造の特定と改善を支援しています。
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