「賃上げ×設備投資」の定番助成金が、令和8年度に大きく変わった
最低賃金の引き上げが毎年続く中、「賃上げの原資をどう作るか」は中小企業共通の課題です。その定番の支援策が業務改善助成金——社内の最低賃金を引き上げ、あわせて生産性向上のための設備投資を行うと、投資費用の一部が助成される制度です。
この業務改善助成金が、令和8年度(2026年度)に大きく再編されました。コース区分、助成率の基準、対象労働者の範囲、対象設備——いずれも変更があり、昨年度までの知識のまま申請を検討すると食い違いが起きます。このコラムでは、令和8年度の変更点と、コースの選び方、申請の流れと注意点を整理します。
※金額・要件は変更されることがあります。最新は厚生労働省の一次情報をご確認ください。
業務改善助成金とは——賃上げと設備投資をセットで支援
業務改善助成金は、事業場内最低賃金(その事業場で最も低い時間給)を一定額以上引き上げ、生産性向上に資する設備投資等を行った中小企業・小規模事業者に対し、その設備投資などの費用の一部を助成する制度です。
ポイントは「賃上げだけ」でも「設備投資だけ」でも対象にならないことです。賃上げという人への投資と、生産性向上という原資づくりをセットで行う——この組み合わせを国が後押しする建て付けになっています。対象となるのは、事業場内最低賃金が令和8年度改定後の地域別最低賃金を下回っている事業場です。つまり、地域の最低賃金に近い水準で働く社員がいる会社が主な対象となります。
令和8年度の変更点まとめ——4つの再編ポイント
①コースが50円・70円・90円の3区分に再編
従来は30円・45円・60円・90円の4コースでしたが、令和8年度から50円・70円・90円の3コースに再編されました。最低ラインが30円から50円に引き上げられており、より本格的な賃上げに支援を集中させる方向性がうかがえます。
②助成率の基準額が1,000円から1,050円に
助成率は、引き上げ前の事業場内最低賃金の水準で決まります。令和8年度は、1,050円未満なら4/5、1,050円以上なら3/4です(従来の基準は1,000円でした)。賃金水準の低い事業場ほど手厚く支援される構造は変わっていません。
③対象労働者は雇用保険被保険者に限定
賃上げの対象としてカウントできる労働者が、雇用保険被保険者(週20時間以上勤務)に限定されました。週数時間だけ働く短時間のパート・アルバイトは対象人数に含められなくなったため、「引き上げ対象が何人になるか」の数え方が従来と変わります。申請前に、対象者の雇用保険加入状況を必ず確認してください。
④自動車が対象経費から除外
従来は一定の条件で認められていた自動車の購入が、特殊用途のものを除いて対象外になりました。営業車や配送車の購入を想定していた事業者は、計画の見直しが必要です。
50円・70円・90円コースの選び方
コースは「事業場内最低賃金をいくら引き上げるか」で決まり、引き上げ額が大きいコースほど助成上限額も大きくなります。上限額は引き上げ対象となる労働者数によっても変わり、最大は90円コース・8人以上の450万円。さらに、物価高騰等の影響を受ける特例事業者に該当する場合は、10人以上の区分で最大600万円まで拡大されます。
選び方の考え方はシンプルです。第一に、引き上げ後の賃金を将来にわたって払い続けられるか。助成金は設備投資費用の一部を一度支援してくれるものであり、引き上げた賃金は恒久的な人件費になります。第二に、予定している設備投資の規模とコースの上限額が見合うか。投資額が小さいのに大きなコースを選んでも、上限まで使い切れません。無理のない賃上げ幅と投資計画の組み合わせで決めるのが現実的です。自社の昇給設計全体の中でどう位置づけるかは、中小企業の昇給の決め方で詳しく解説しています。
対象になる設備・ならない設備
助成対象となるのは、生産性向上に資する設備投資等です。例えば、POSレジや券売機の導入、調理・加工機器の更新、受発注や在庫管理のシステム化、リフト等の運搬機器など、「作業時間の短縮」「工程の効率化」につながる投資が典型です。単なる経費削減や、生産性向上との関係を説明できない購入は対象になりません。
一方、対象にならないものの代表が、前述の自動車(特殊用途を除く)です。また、パソコンやタブレット等は原則として汎用品の扱いですが、物価高騰等の要件を満たす特例事業者については、パソコン等が対象になり得る特例が設けられています。自社が特例に該当するか、購入予定の機器が対象になるかは個別性が高いため、申請前に交付要綱と最新の手引きで確認するか、事業場を管轄する労働局に照会することをおすすめします。
【無料】賃上げの効果を最大化する——組織の状態を先に診断する
せっかく助成金を使って賃上げしても、職場への不満が別のところにあれば、離職は止まりません。賃上げの効果は、組織の状態によって大きく変わります。
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申請の流れと注意点——賃上げは「申請の後」に行う
申請の大まかな流れは、①交付申請書・事業実施計画書を労働局に提出→②交付決定→③設備投資の実施と賃上げ(就業規則等への規定)→④事業実績報告→⑤助成金の支払いという順序です。
ここで最も注意すべきなのが、賃上げのタイミングです。令和8年度の運用では、賃金の引き上げは申請より後に実施する必要があり、先に賃上げしてから申請することはできません。また、引き上げを複数回に分割して行うことも認められていません。さらに、引き上げは地域別最低賃金の発効日の前日までに実施する必要があります。毎年秋の最低賃金改定を見据えると、実質的な準備期間は限られます。
加えて、同一事業場からの申請は年度内1回まで。そして本制度は予算の範囲内で実施されるため、申請が集中すると年度途中で受付が終了する可能性があります。例年、締め切り間際の駆け込みは書類不備のリスクも高まります。活用を考えるなら、早めに計画を固めて動くことが何よりの対策です。
他の助成金との併用の考え方
業務改善助成金は「賃金の底上げ×設備投資」の制度ですが、人材への投資という観点では他の助成金と役割分担ができます。例えば、パート・契約社員の正社員化にはキャリアアップ助成金、社員研修の実施には人材開発支援助成金、職場環境の改善による定着支援には人材確保等支援助成金——というように、「賃金」「雇用形態」「育成」「環境」のどこに課題があるかで使う制度が変わります。
令和8年度の雇用関係助成金は「賃上げ支援助成金パッケージ」として体系化されており、生産性向上・非正規の処遇改善・より高い処遇への労働移動という3つの柱で整理されています。同じ経費を複数の助成金で二重に受給することはできませんが、対象や目的が異なる制度を組み合わせること自体は可能です。賃上げの前提として社員の成長の道筋を示したい方は中小企業のキャリアパスの作り方も参考になります。自社に合う制度の全体像を知りたい方には、中小企業向け助成金ガイド(無料PDF)をご用意しています。
まとめ|変更点を正しく押さえ、早めに動く
整理します。①令和8年度はコースが50/70/90円の3区分に再編され、助成率の基準は1,050円に変更。②対象労働者は雇用保険被保険者に限定、自動車は原則対象外に。③賃上げは申請の後・分割不可・地域別最低賃金の発効日前日までに実施。④予算内での実施のため早期終了があり得る。動くなら早めに。
業務改善助成金は、賃上げ圧力を「原資づくりの機会」に変えられる数少ない制度です。自社が対象になるか、どのコースが現実的か——まずは事業場内最低賃金の現状確認から始めてみてください。
