「うちは40人もいないから関係ない」——その前提が、今年の夏に変わりました
障害者雇用の話題になると、中小企業の経営者からは決まってこう返ってきます。「大きい会社の話でしょう」。実際、長いあいだ雇用義務の対象は従業員43.5人以上、その後40人以上とされてきました。社員30人台の会社にとっては、たしかに他人事だったのです。
その線引きが、令和8年(2026年)7月から変わりました。民間企業の法定雇用率は2.7%に引き上げられ、雇用義務の対象となる事業主の範囲は従業員37.5人以上に広がっています。社員が40人に届かない会社にも義務が発生する、ということです。このコラムは、制度そのものの解説を目的にしていません。障害者雇用の実績がゼロの中小企業が、今週から何をすればいいのか——そこに絞って整理します。
何が変わったのか——2.7%と37.5人
まず事実関係を正確に押さえます。障害者雇用促進法は、事業主に対し、雇用する労働者数に一定の率を乗じた人数以上の障害者を雇用することを義務づけています。この率が法定雇用率で、民間企業は令和5年度まで2.3%、令和6年4月から2.5%と段階的に引き上げられ、令和8年7月から2.7%になりました。
率が上がると、義務の対象になる会社の規模も自動的に下がります。法定雇用障害者数は、原則として常用労働者数に法定雇用率を掛け、1人未満の端数を切り捨てて計算します。37人では37×2.7%=0.999人となり1人未満ですが、短時間労働者を0.5人として数える仕組みがあるため、次の区分である37.5人では1人以上となります。このため、令和8年7月から対象となる事業主の範囲は37.5人以上です。
「37.5人」という半端な数字に戸惑うかもしれませんが、労働者数の側が0.5人単位で表される仕組みだから、と考えてください。パートやアルバイトが多い会社ほど、正社員の人数だけで判断すると見誤ります。
自社が対象かを確かめる——「常用労働者」の数え方
最初にやるべきは、自社が対象事業主かどうかの確認です。ここで使うのは「社員数」ではなく常用労働者数という概念で、数え方に決まりがあります。
原則として、1週間の所定労働時間が30時間以上の労働者は1人、20時間以上30時間未満の短時間労働者は0.5人として数えます。雇用形態が正社員か契約社員かパートかは関係ありません。「1年を超えて引き続き雇用される者(その見込みがある者を含む)」かどうかが基準になります。役員は原則として含みませんが、使用人兼務役員など労働者性がある場合は含めます。
たとえば正社員30名、週30時間以上のパート4名、週25時間のパート8名の会社なら、30+4+(8×0.5)=38人。37.5人を超えているため、対象事業主です。「うちは正社員30人だから関係ない」と思っていた会社が、数えてみると対象だった——この規模の会社が、今回いちばん多く生まれています。まずは在籍者リストを所定労働時間で仕分けるところから始めてください。
やること1:不足数を出し、納付金の有無を確認する
対象事業主だと分かったら、次は法定雇用障害者数を計算します。常用労働者数に2.7%を掛け、小数点以下を切り捨てた数がそれです。先の例なら38×0.027=1.026なので、切り捨てて1人。現在の雇用実績が0人であれば、不足数は1人ということになります。
※建設業・道路貨物運送業・医療業など一部の除外率設定業種では、法定雇用障害者数の算定基礎となる労働者数から、所定の除外率に相当する人数を控除する仕組みがあります。自社が該当するかどうかは、労働局・ハローワークにご確認ください。
ここで多くの経営者が心配するのが、いわゆる障害者雇用納付金です。不足1人につき月額5万円という数字を聞いて身構える方がいますが、納付金の対象は常用労働者が100人を超える事業主に限られます。社員40人前後の会社に、いきなり納付金の請求が来ることはありません。
ただし、納付金がかからないことと、雇用義務がないことは別です。法定雇用率を下回る企業には、ハローワークによる達成指導が行われることがあります。さらに、一定の基準に該当する未達成企業については、障害者雇入れ計画の作成命令、適正実施勧告、特別指導を経て、改善が見られない場合には企業名公表に至る制度もあります。
また、対象事業主には、毎年6月1日現在の障害者雇用状況をハローワークへ報告する義務があります(いわゆるロクイチ報告)。なお、令和8年(2026年)の6月1日時点では新しい37.5人基準の施行前だったため、同年の報告は従来の40.0人以上が対象でした。2026年7月から新たに対象となった事業主は、翌年以降、6月1日時点で対象に該当する場合に報告が必要になります。「罰金がないから放置してよい」という話ではありません。
やること2:仕事を切り出す——「できる仕事」から探さない
実務でいちばん難しいのが、ここです。多くの会社は「障害のある方にできる仕事が、うちにはない」と言います。しかしこの言い方には、順番の誤りが含まれています。「できる仕事」を探すのではなく、「いま誰かが片手間でやっている仕事」を集める——これが職務の切り出しの基本です。
具体的には、こう進めます。まず社員数名に、1週間分の業務を15分単位で書き出してもらいます。次に、その中から①手順が決まっている、②毎回同じ成果物になる、③割り込みが少ないという3条件に当てはまるものを抜き出します。データ入力、書類のスキャンとファイリング、備品の在庫管理と発注、清掃、社内便の仕分け、受注データの照合。こうした仕事は、たいていどの会社にも散らばっています。
重要なのは、これらが「余った仕事」ではないという点です。営業担当が月8時間を書類整理に使っているなら、それを切り出すことで営業活動が月8時間増える。障害者雇用を福祉としてではなく業務設計の見直しとして扱うと、社内の納得感がまったく変わります。属人化した業務を洗い出す考え方は、属人化を解消する方法の手順がそのまま応用できます。
短時間勤務でも雇用率にカウントできる
「フルタイムで雇う自信がない」という声もよく聞きます。ここは制度が現実に合わせて設計されています。障害者の雇用率上のカウントは、原則として週30時間以上なら1人、週20時間以上30時間未満なら0.5人です。重度身体障害者・重度知的障害者にはダブルカウントの仕組みがあり、週30時間以上なら2人、週20時間以上30時間未満なら1人として算定されます。また精神障害者で週20時間以上30時間未満の場合は、当分の間、1人を1カウントとして算定する特例があります。
さらに、週所定労働時間が10時間以上20時間未満の場合でも、重度身体障害者・重度知的障害者・精神障害者については、1人を0.5人として実雇用率に算定できます。たとえば週3日・1日4時間程度など、20時間未満の勤務から雇用を検討できる場合もあります。いきなりフルタイム1名を採用するより、短時間から始めて職務と体制を育てるほうが、定着の面でも現実的です。なお、カウントの取扱いには細かい要件があるため、実際の判断は必ずハローワークに確認してください。
【無料】受け入れる前に、いまの職場の状態を確かめる
障害者雇用がうまくいかない会社の多くは、障害の理解が足りないのではなく、もともと新しい人を受け入れる余力が職場になかったというケースです。教える人がいない、業務手順が言語化されていない、相談先がない——この状態に新しい方を迎えても、双方が苦しくなります。
キャリアクリエの無料組織診断ツールでは、育成体制や相談のしやすさを含む職場の状態を、匿名性のある形で可視化できます。採用に動く前の現状確認としてお使いください。
やること3:支援機関と助成金を使う——ひとりで抱えない
障害者雇用は、中小企業が単独で立ち上げるには負荷の大きいテーマです。幸い、公的な支援の層は厚くできています。
窓口となるのはハローワークの専門援助部門です。求人の出し方、職務の切り出し、実習の受け入れまで相談できます。次に地域障害者職業センター。職場適応援助者(ジョブコーチ)の支援が受けられ、受け入れ初期に現場へ入って本人と職場の橋渡しをしてくれます。さらに障害者就業・生活支援センターは、就労面と生活面の両方を継続的に支える機関です。
実習制度の活用も現実的です。ハローワークや就労移行支援事業所を通じて、まず数日から数週間の職場実習を受け入れる。採用の前に相互の適性を確かめられるので、「合わなかった」というミスマッチを大きく減らせます。
費用面では、障害者を新たに雇い入れた事業主向けの助成金や、施設・設備の整備、職場定着の支援に対する助成の枠組みがあります。ただし、名称も要件も年度ごとに見直されるため、金額や条件はここでは断定しません。必ずハローワークまたは独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の最新の案内で確認してください。雇用管理の改善に使える制度全般については人材確保等支援助成金の解説もあわせてご覧ください。
「雇って終わり」にしないための受け入れ設計
法定雇用率の話は数字で始まりますが、実務は数字では終わりません。採用しても半年で退職してしまえば、翌年また同じ課題に戻ります。定着させるために、最低限これだけは準備してください。
第一に担当者を決めること。「みんなで見る」は、誰も見ないのと同じです。日常の指示を出す人と、困ったときに相談する人を、それぞれ名前で決めます。第二に手順を紙にすること。口頭で教えて覚えてもらう前提を捨て、写真や図を使った手順書を作ります。これは障害の有無にかかわらず、新人教育全体の質を上げます。
第三に合理的配慮を「話し合って決める」こと。障害者雇用促進法は、事業主に対して、過重な負担とならない範囲で合理的配慮を提供することを義務づけています。そしてそれは、会社が一方的に想像して用意するものではなく、本人との対話を通じて決めるものです。何が困難で、どんな配慮があれば働けるのか。ここを最初に聞き取り、定期的に見直す。受け入れの設計そのものは、中小企業のオンボーディング設計の考え方が土台になります。
求人票の書き方で、応募の数は変わる
職務を切り出したら、次は求人票です。ここで多くの中小企業がつまずきます。「障害者歓迎」とだけ書いた求人には、ほとんど応募が来ません。応募する側が知りたいのは、歓迎の意思ではなく具体的な条件だからです。
最低限、次の5点は書いてください。①1日の業務の流れ(何時に何をするか)、②勤務時間と休憩の取り方、③指示を出す人と相談できる人、④通勤経路と職場の設備(段差、トイレ、休憩場所)、⑤配慮できることと、現時点では難しいこと。「難しいこと」を正直に書くのは、マイナスではありません。書いてあるほうが、応募者は判断できます。曖昧なまま採用して入社後に食い違うほうが、双方にとって損失が大きいのです。
周囲の社員への説明で、やってはいけないこと
見落とされがちなのが、既存社員への説明です。ここでの失敗は2つあります。ひとつは何も説明しないこと。配慮の理由が分からないまま「あの人だけ特別扱い」と映れば、職場に不公平感が生まれます。もうひとつは説明しすぎること。障害名や診断内容は要配慮個人情報に該当するため、利用目的を明確にし、必要最小限の範囲で慎重に取り扱う必要があります。職場内で何をどこまで共有するかは、本人の意向を確認し、事前に合意しておくのが基本です。
現実的な線引きは、「配慮の内容」は必要な人に必要な範囲で共有し、「障害の内容」は共有しないことです。「Aさんは口頭より書面での指示のほうが正確に伝わるので、依頼は必ずメモで渡してください」。この粒度なら、周囲は動けますし、本人の情報も守られます。何をどこまで伝えるかは、必ず本人と事前に合意してください。
あわせて、既存社員が抱きやすい不安にも先回りしておくと安心です。「自分の仕事が増えるのではないか」「注意していいのか分からない」。この2つがほとんどです。前者には、切り出した業務が誰の負担を減らすものかを具体的に説明します。後者には、仕事の進め方についての指摘は、障害の有無にかかわらず必要であることを明言してください。腫れ物に触るような扱いは、本人にとっても働きにくさになります。
まとめ|37.5人は、多くの中小企業にとって現実の数字
整理します。①令和8年7月から法定雇用率は2.7%、雇用義務の対象は常用労働者37.5人以上に拡大した。②常用労働者は週30時間以上を1人、20時間以上30時間未満を0.5人として数えるため、パートが多い会社は正社員数だけで判断しない。③納付金の対象は100人超の事業主だが、100人以下でも雇用義務は生じ、翌年以降は6月1日時点の報告も必要になる。④職務は「できる仕事」を探すのではなく、片手間でやっている定型業務を集めて作る。⑤短時間勤務でもカウントでき、ハローワーク・地域障害者職業センターなどの支援を使える。
法改正への対応は、身構えると重く感じますが、やることの順番ははっきりしています。まず数える。次に不足数を出す。そして仕事を切り出す。この3つを済ませてから相談窓口へ行けば、話は具体的に進みます。数字はすでに動いています。動いていないのは、たいてい社内の把握のほうです。まずは在籍者リストを開くところから始めてください。なお、率や対象規模、カウントの取扱いは今後も見直される可能性があります。実務判断の際は、必ず厚生労働省・都道府県労働局の最新の案内をご確認ください。
