カスハラ対策を就業規則にどう書く?規定の入れ方と方針文の作り方

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「方針を明文化しろと言われても、何をどこに書けばいいのか」

2026年10月1日に施行されるカスハラ対策の義務化(改正労働施策総合推進法)で、事業主に求められる措置の最初の項目が「事業主方針の明確化と周知」です。つまり、マニュアルや窓口より先に、まず「会社としてカスハラにどう向き合うか」を文書にすることが出発点になります。ところが実際に着手すると、就業規則に書くのか、別規程にするのか、対外的な方針文はどう作るのか——迷うポイントが次々に出てきます。

この記事では、カスハラ対策を就業規則・社内規程にどう位置づけるか、盛り込むべき項目、対外的に公表する方針文の作り方、社員への周知方法までを整理します。なお、本記事は「ひな形の丸写し」ではなく「何を盛り込み、なぜそう書くか」という考え方をお伝えするものです。就業規則の変更は労務全体との整合が必要ですので、最終的には社労士等の専門家の確認を受けることを前提にお読みください。

「方針の明確化」が義務の出発点である理由

義務化で求められる措置は、①事業主方針の明確化・周知、②相談体制の整備、③被害を受けた労働者への配慮、④再発防止等の4本柱です(全体像はカスハラ対策義務化の全体像をご覧ください)。具体的な内容は指針(令和8年厚生労働省告示第51号、2026年2月26日公布)で確定しており、方針の明確化はそのすべての土台に位置づけられています。

なぜ方針が先なのか。それは、方針がなければ現場の一つひとつの判断に根拠がなくなるからです。対応を打ち切る、担当を代える、悪質な顧客との取引を見直す——これらはすべて「会社はカスハラから社員を守る」という明文の方針があって初めて、担当者個人の独断ではなく会社の行動になります。逆に方針が紙になっていない会社では、現場は「勝手に対応を打ち切って、後で怒られないか」と萎縮し、結局我慢を選びます。明文化は形式ではなく、現場に判断の後ろ盾を与える実務なのです。

就業規則・社内規程に入れる項目

まず構成の選択肢から。実務上は、(A)就業規則本体に基本条項を置き、詳細は「カスタマーハラスメント対応規程」など別規程に委任する方式と、(B)既存のハラスメント防止規程にカスハラの章を追加する方式が現実的です。就業規則本体をシンプルに保ちつつ、運用ルールを機動的に見直せるのは(A)、パワハラ・セクハラ対策と一体で管理できるのは(B)です。会社の規程体系に合わせて選んでください。

盛り込むべき項目は、おおむね次のとおりです。①目的と基本方針——社員の就業環境を守るため、カスハラには組織として対応するという宣言。②定義——顧客等からの言動で、社会通念上相当な範囲を超え、就業環境を害するもの、という3要素に沿った定義。③会社の対応——事実確認、複数名対応への切り替え、対応の打ち切り、悪質な場合の法的措置等を会社の判断で行うこと。④相談窓口——窓口の設置と、相談を理由とする不利益取り扱いの禁止、プライバシーの保護。⑤被害を受けた社員への配慮——業務上の配慮やケアを行うこと。⑥再発防止——記録、研修、規程の見直し。

「顧客対応の切り上げを認める」一文が現場を守る

項目の中で特に効果が大きいのは、③の中に「著しい迷惑行為に対しては、会社の定める基準により対応を打ち切ることができる」という趣旨の一文を入れることです。現場の切り上げ対応が規程上の正当な行動になり、社員は「お客様対応を途中でやめてよいのか」という葛藤から解放されます。具体的な打ち切り基準やエスカレーションの手順は、規程本体ではなく対応マニュアル側に書くのが、見直しやすさの点でもおすすめです。

対外公表する方針文の作り方

社内規程とは別に、顧客・取引先に向けた「カスタマーハラスメントに対する基本方針」を公表することも重要です。ホームページや店頭への掲示によって、悪質な行為への抑止力になると同時に、社員には「会社は本気だ」というメッセージになります。

方針文の構成は、①お客様への感謝と、真摯に対応する姿勢(正当なご意見・ご要望には今後も誠実に対応することを明記)、②カスハラに該当する行為の例示(暴言・脅迫、長時間の拘束、過剰な要求、SNSでの誹謗中傷など)、③該当する場合の対応(対応の中止、取引のお断り、警察・弁護士との連携)、④社員への対応(相談体制と社員保護の姿勢)、という流れが標準的です。ポイントは、冒頭に「お客様の声を大切にする」姿勢を必ず置くこと。これがないと、正当な指摘まで拒む会社だと誤解され、かえって顧客との関係を損ねます。


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社員への周知方法——「知らなかった」を作らない

規程と方針文ができたら、周知です。義務化の措置も「明確化」と「周知」がセットで求められています。実務としては、①全社員向けの説明の場を設ける(朝礼・会議・研修などで、経営者自身の言葉で方針を語る)、②いつでも見られる状態にする(社内共有フォルダ、掲示、社内チャットの固定投稿)、③入社時の説明項目に組み込む、の3点が基本です。あわせて、相談窓口の連絡先を方針とセットで案内してください。窓口の作り方と周知の工夫はカスハラ相談窓口の作り方で詳しく解説しています。

周知で大切なのは、文書を配ることではなく、「対応を打ち切っても会社が守る」というメッセージが現場の一人ひとりに届くことです。書面+経営者の肉声、この組み合わせに勝る周知方法はありません。

規定だけで終わらせないために

規程の整備はゴールではなくスタートです。規程・マニュアル・窓口・研修の4点がそろって、初めて義務化対応は実務として回り始めます。とくに規程は、作った直後より「実際の事案でどう使われたか」で真価が問われます。事案が起きたら、規程どおりに動けたか、動けなかったならどこに無理があったかを振り返り、年1回程度は規程とマニュアルを見直してください。

また、規程に「対応を打ち切れる」と書いても、実際の現場で最初に打ち切り対応をした社員を経営者がねぎらうかどうかで、規程が生きるか死ぬかが決まります。最初の運用事例こそ、丁寧に扱ってください。

社労士・専門家との連携

就業規則の変更には、意見聴取や労働基準監督署への届出(常時10人以上の事業場の場合)など、労働法令上の手続きが伴います。また、カスハラ規定は服務規律や懲戒、安全衛生など既存の条文との整合も必要です。本記事で示した「盛り込む項目」をたたき台として自社案を作り、最終的な条文化と手続きは社労士に確認を依頼するのが、費用と確実性のバランスが最も良い進め方です。※法令・指針の内容は今後改定される可能性があります。最新情報は厚生労働省の一次情報を必ずご確認ください。

まとめ|明文化は、現場に「後ろ盾」を渡す仕事

整理します。①方針の明文化は義務化4本柱の出発点であり、現場の判断に根拠を与えるもの。②規程には目的・定義・会社の対応・窓口・被害者への配慮・再発防止を盛り込み、「対応を打ち切れる」旨を明記する。③対外的な方針文は「正当な声には誠実に対応する」姿勢を冒頭に置いて公表する。④条文化と届出手続きは社労士の確認を受ける

規程づくりは一見、地味な書類仕事です。しかしその一文一文が、明日カスハラに直面する社員の後ろ盾になります。2026年10月の施行に向けて、まずは自社のたたき台づくりから始めてみてください。

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